「検討します」
そう言って帰られたお客様に、後日電話をかける。
会社員時代、私はそんな営業をしていました。
成約に至らなかったお客様に電話をかけ、再度ご提案する。会社からは、それが仕事として求められていました。
でも、私はこの電話が本当に嫌でした。
お客様は一度「検討する」とおっしゃっている。
それなのに、こちらの都合で連絡をすることに、どうしても抵抗があったのです。
だから、電話をかけたふりをしていたこともあります。
今思えば、仕事として褒められた行動ではありません。
そして、そんな自分のことも嫌でした。
だったら、どうすればいいのだろう。
そこから私が考えるようになったのは、追いかけなくても、その場で納得して選んでもらえる接客でした。
追いかけなくていいように、成約率を上げようと思った
当時の私が考えたのは、とてもシンプルなことでした。
後から電話をかけるのが嫌なら、その場での成約率を上げればいい。
もちろん、すべてのお客様がその日に決断できるわけではありません。
でも、少なくとも私の準備不足や説明不足によって、お客様が迷ったまま帰られることは減らせるはず。
そう考えて、接客の準備に力を入れるようになりました。
来店前にできる限りの情報を整理する。
どんなことに悩まれているのか、どんな選択肢が考えられるのか。
当時は模型を使ってご案内する接客だったので、お客様が完成後のイメージを具体的に思い描けるよう、何度も練習しました。
模型のどこを見ていただくか。
どんな順番で説明すれば伝わるのか。
どんな言葉なら、暮らしのイメージが湧くのか。
とにかく準備をしました。
でも、ここで大切なのは、準備したことを全部話すわけではないということです。
準備したことを全部話しても、売り込みになる
一生懸命準備をすると、ついそれを全部伝えたくなります。
商品の特徴も、メリットも、他社との違いも。
せっかく調べたのだから、知ってほしい。
でも、それを畳みかけるように話してしまえば、結局は追いかける営業と変わらないのです。
私が意識したのは、お客様がいらっしゃったら、まずは話を聞くこと。
何に困っているのか。
何を叶えたいのか。
何が不安なのか。
そして、お客様のお話から出てきた枝葉に、自分が準備してきた情報を乗せていく。
たとえば、こちらが伝えたい商品の魅力が10個あったとしても、お客様が求めているものがそのうちの2個なら、まずはその2個を丁寧に伝える。
残りの8個を無理に話す必要はありません。
大切なのは、どれだけ多くの情報を伝えたかではなく、お客様が知りたかったことに、きちんと答えられたかどうかです。
正しい提案だけでは、人は動かない
接客をしていると、こちらから見れば明らかに良いと思える選択肢があることもあります。
でも、それを正論として伝えたからといって、お客様が納得するとは限りません。
なぜなら、人は正しいことを言われただけでは、必ずしも行動できないからです。
その前に必要なのは、共感だと思っています。
「私の悩みをわかってくれている」
「私が不安に思っていることを理解してくれている」
そう感じてもらえること。
そのうえで、準備してきた知識や経験を使って提案する。
すると、その提案は単なる商品説明ではなく、その人のための提案になります。
そして、こうした対話の積み重ねが信頼関係につながっていきます。
お客様が買う理由をこちらが並べるのではなく、お客様自身が納得できる理由を一緒に見つけていく。
私が大切にしてきたのは、そんな接客でした。
アパレルでも活きた、当日成約率の高い接客
その後、私はアパレル業界でも働きました。
扱う商品も、価格帯も、お客様が来店される理由も違います。
でも、基本的な考え方は同じでした。
まずは準備する。
そして、目の前のお客様の話を聞く。
会話の中から、その方が本当に求めていることを理解し、必要な情報を提案する。
この積み重ねが、初めて来店されたお客様の当日成約率の高さにもつながったのだと思います。
私は、接客でたくさん話すことが成果につながるとは思っていません。
むしろ、お客様が話してくださる時間の中にこそ、提案のヒントがある。
どれだけ商品知識が豊富でも、相手のことを理解しようとしなければ、その知識は一方的な説明になってしまいます。
反対に、相手のことを理解できれば、たくさんの商品知識の中から、本当に必要なものを選んで伝えられるようになります。
追いかけない集客は、何もしないことではない
今はWebを使った仕事をしていますが、この考え方は変わっていません。
追いかけない集客というと、発信をして、誰かが申し込んでくれるのをただ待つことだと思われるかもしれません。
でも、そうではありません。
相手が知りたいことを考える。
不安に思うことを先回りして整理する。
サービスの内容や価格をわかりやすく伝える。
自分の考え方や仕事への姿勢も、きちんと見えるようにする。
Webサイトやブログにも、できる準備はたくさんあります。
それは、かつて私が模型を使って接客するために何度も練習していたことと、根本的には同じです。
ただし、どれだけ準備したとしても、最後に選ぶのはお客様です。
こちらが用意した情報を全部読んでもらう必要もなければ、すべての人に申し込んでもらう必要もありません。
必要な人が、必要な情報を受け取り、自分で納得して選べること。
私は、そんな集客の仕組みをつくっていきたいと思っています。
追いかける営業が嫌だった経験が、今の私の仕事につながっている
今振り返ると、会社員時代に電話をかけるのが嫌だった経験は、私の仕事の原点のひとつだったのかもしれません。
追いかけたくないからこそ、準備するようになった。
売り込みたくないからこそ、お客様の話を聞くようになった。
そして、成約という結果だけでなく、そこに至るまでの対話や信頼関係を大切にするようになりました。
当時は、目の前のお客様に納得して選んでいただくために試行錯誤していただけでした。
でも、その経験はその後のアパレルでの接客にも、独立してからのコンサルティングにも、ずっと活きています。
扱う商品やサービスが変わっても、人と向き合う仕事の本質は変わらなかったのです。
なぜ私は、著書の第2章で「対話力」を伝えたのか
私の著書『おうちコンサルタントの始め方』では、第2章をまるごと使って「言語化する力」と「対話力」についてお伝えしています。
コンサルタントと聞くと、豊富な知識や経験をもとに、相手に正しい答えを教える仕事だと思われるかもしれません。
でも、私はそうは考えていません。
どれだけ正しいことを伝えても、相手が納得しなければ行動にはつながらないからです。
そして、その納得は、一方的に説明することからは生まれません。
まずは相手の話を聞くこと。
言葉の奥にある思いや悩みを理解すること。
共感しながら対話を重ね、相手が自分の言葉で考えを整理できるようにすること。
その積み重ねが、信頼関係をつくっていきます。
だから第2章では、「投げかけ対話を身につけよう」というテーマのもと、傾聴・共感・質問について、それぞれ掘り下げています。
「傾聴」で言葉を引き出す。
「共感力」で本音を話してもらう。
信頼関係を構築し、「質問力」を高める。
さらに、相手が自分自身で考え、行動できるように、自立を促す対話についても触れています。
これらは、コンサルタントになってから突然身につけたものではありません。
会社員時代、追いかける営業が嫌で、どうすればお客様にその場で納得していただけるのかを考え続けた経験が、土台になっています。
あの頃は、まさか自分がその経験を一冊の本にまとめることになるとは思ってもいませんでした。
でも、振り返ると、ずっと同じことを大切にしてきたのだと感じます。
相手を動かそうとするのではなく、相手が自分で動きたくなるような対話をすること。
これは営業や接客だけでなく、コンサルティングにも、そして日々の人間関係にも通じるものだと思います。
もし、お客様とのコミュニケーションや信頼関係の築き方に悩んでいる方がいたら、ぜひ第2章を読んでいただけたら嬉しいです。
売るために話すのではなく、理解するために聞く
私は、追いかける営業がすべて悪いとは思っていません。
後日の連絡を必要としているお客様もいれば、じっくり時間をかけて判断したい方もいます。
ただ、こちらの売りたい気持ちが先に立ち、お客様の意思を置き去りにするような仕事は、もうしたくありません。
どれだけ成果が出たとしても、そこに後味の悪さが残るからです。
準備は、徹底的にする。
でも、お客様を目の前にしたら、まずは話を聞く。
その方の言葉から見えてきた悩みや希望に、自分が準備してきた知識や経験を重ねていく。
そして、最後はお客様自身が納得して選ぶ。
私が会社員時代から大切にしてきたのは、そんな仕事の仕方です。
売るために話すのではなく、理解するために聞く。
追いかけて売れたときの達成感よりも、お互いが納得して仕事を始められる喜びを。
私はこれからも、そんな仕事をしていきたいと思っています。
